街に漂う菓子の香り惣八

No.13

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文政3年ごろから、

加賀に根付いてきた、

『惣八』の「六方焼」。

山代温泉の共同浴場である総湯を中心に旅館や商店が立ち並ぶ曲輪に和菓子屋『惣八』がある。提供する「六方焼」というは、小麦粉と卵で作った生地に餡子を包んで焼いたもの。生地の六面を焼き上げることから、この名前が付けられたらしく、石川県や福井県をはじめとする北陸・近畿を中心に、全国に様々な六方焼があるのだとか。高砂きんつばとも呼ばれ、明治時代に生まれたという説もあるほど、歴史の長い焼き菓子である。

ライター寺田

『惣八』は、なんでも1820年頃に創業した老舗らしいです。店の周りからすでに甘い香りが漂い、山大温泉を訪れたら温泉卵と「六方焼」と言われるくらい人気。現在6代目の店主が歴史ある焼き菓子を作っているのですが、残念ながら跡継ぎがいないそうです。昔から愛されてきた「六方焼」とはいかなるものか…。早速、調査にしていきましょう!」

「こんにちは」と暖簾を潜り店内へ入ると、

何と!
ピースサインで登場した、
お茶目な6代目店主。

売り場から「六方焼」の調理工程が拝見できるガラスの向こうで、ピンクのユニフォームが印象的な6代目店主の藤澤隆昭(ふじさわたかあき)さん69歳が出迎えてくれました。また、6代目と共に奥様の恵子さんも売り場に立っています。

ライター寺田

「お邪魔します。すいません、作業中に」

藤澤さん

「大丈夫だよ。お話しながら、作り続けちゃうけどいい?」

ライター寺田
「もちろんです。拝見させていただきます」
藤澤さん

「以前はね、裏で作業してたんだけどお客さんの顔もみたいなって思ってね。10年くらい前かな~リニューアルして店内からも作業スペース見えるようにしたんです。家内と二人で店番もできるから一石二鳥だしね。でもね、実際にやってみて最初の頃はやっぱり恥ずかしくてね…。お客さんも写真とか取られるからね~。徐々に慣れてきたんだけど、やっぱり今も緊張するね~(笑)」

ライター寺田
「えぇほんとですか?(出迎えてくれる時ピースしてましたよ!)でも、実際にこうやって作ってるのかって作業工程見れるのはいいですね」
藤澤さん
「基本的に餡包みから焼き上げまで、ここでやっているからね」

と生地に餡子を詰める藤澤さん。

餡子は自家製のこしあんを使用。餡を包む生地は、厳選した砂糖と卵、そして隠し味のはちみつで作っているとのこと。

藤澤さん
生地はね、ぶちって手でちぎれる感じが大事なんだよ。特に水分の調整が大切でね、普通は生地に水を入れるんだけど、うちは昔から食材の水分だけで作っているからね
ライター寺田
「餡も生地も手作りなんですね。大体一日どれくらいの量を作っているんですか?
藤澤さん
ん~大体500個くらいかなぁ~
ライター寺田
「500個!」
藤澤さん

「大変でしょ(笑)。だからね、機械を使う事も考えたことあったんだよ。でもね、機械で作ると生地をこねすぎてしまってね。うちの生地には合わなくて、思うようなものができなかったんだよ

ライター寺田
「食感や味もやっぱり変わってしまったんですか?」
藤澤さん

「全然違うね。生地の水分量が変わっても味ばらけてきちゃうから難しいね」

ライター寺田

「お菓子作りって繊細なんですね。6代目はご自身のお父様から、お菓子作りを学ばれたんですか?」

藤澤さん

「教えられたというよりも見て覚えたかな~。小さい時から自分の親や祖父が作っていたからね。自分も東京の菓子の専門学校行って、20歳ごろ店に帰って来たんだけど、家の作り方はやっぱり昔ながらっていうか…。いろいろ見てきて、自分にはこんな細かい仕事はできない! って親父と喧嘩してしまってね

ライター寺田

「一から手作りですもんね~。それこそ機械を使って、もっと効率的に作れたらとか考えてしまいますよね」

藤澤さん

「そうなんだよ。自分も若かったからね。それで家飛び出して10年ちかく、ダンプの運転手やってたんだよ」

ライター寺田

「家飛び出したんですか! それもまた全然違う業種に! ちなみになんですが、今こうしてお店継いでるじゃないですか、店に戻ってくるきっかけってなんだったんですか?」

藤澤さん

「嫁さんと出会って結婚したことかな。店も長く続てるからね、思い入れもあったのかな…。悩んだ末に、やってみるかってなってね。30歳くらいで店に戻ってきたのかな~

ライター寺田

「お父様も喜ばれたんじゃないですか? 6代目帰ってきて、店も継いでくれるってなったわけですから」

藤澤さん

「ん~どうだろうね(笑)。でも、しばらくは親父と二人で作業して店任せてもらえたわけだからね~。じゃそろそろ焼いていくよ」

餡の詰め作業がいったん終わり、
次はいよいよ焼きの工程へ。

ライター寺田

形成は丸にするのに、焼き上げると正方形のようになるんですね。この後、型に入れて形整えるんですか?

藤澤さん
これはね~焼きながら形を整えていくんだよ

焼き色がついてくるにつれ、甘い香りが辺りに漂い、食欲を刺激してきます。

ライター寺田
「いい香りしてきましたね~」
藤澤さん

面白いのはね、その日によって香りが違うんだよ。奥さんともね、今日は唐揚げみたいなにおいだね、なんて話しながらいつも焼いてるんです。お客さんも、いい香りってお店に来てくれるからね

ライター寺田
(6代目、自分もその香りに魅了されてる一人です)。ひっくり返すタイミングって?
藤澤さん

勘かな

ライター寺田
「勘!」

「勘」とは言いながら、焼き色を見る6代目の眼光は鋭かった。六面につく程よい焼き目や綺麗な直方体に形成を行えるのは、これまでの経験や熟練された技術があるからこそ。

慣れた手つきであっという間に6面を焼き上げていく。

そして完成! ほんとに綺麗にむらなく焼き上げるなぁ~。

この後は、木箱に入れて余分な水分を取り除くとのこと。この木箱も6代目が生まれる前から使っており「やっぱり木でないとダメだね」と強いこだわりを感じます。

出来立てを早速いただきます!

「六方焼」は1つ120円で提供。おやつにも、ちょっとしたおもたせにも喜ばれているのだそうです。

中には餡子がギッシリと詰まっております!

一口に食べるとまず感じるのは生地のほのかな甘味と芳ばしさ。ゆっくりと餡子の甘味が後を追ってきます。生地に入っているはちみつの甘味を意識させるのは、餡子の甘味が去った後。

ライター寺田
「美味しい~です。優しい甘さで、全然しつこくない! 生地はサクッとその後、ふわっと溶けるような感じですね。(このために水分量を調整しているのか!)また、この生地の香ばしさがまろやかな餡の甘味に合いますね。これ何個もいけちゃうやつですね」
藤澤さん
味はシンプルに。そのため素材もこだわってるんだよ。昔に比べて材料も良くなってるからね、作り方は変えてないのにどんどん美味しくなってるね。実はね、この店も分かっているだけで6代続いているんだって。ほんとはもっと昔からあるらしいんだよね」
ライター寺田

「え? どういうことですか?」

藤澤さん

藤澤家っていうのは元々、山形県から来ているらしいのよ。先祖は山形のお姫様に仕えていた下級武士だったらしくてね。でも、ごはん食べれなくなったのかね~、お姫様のお供で訪れたこの地で、お菓子屋を始めたんだって。それで、この武士を入れたら11代以上続いていることになるらしいのよ

過去帳をさかのぼり分かった店の歴史。実は店名も、元々は『藤沢萬寿堂(まんじゅうどう)』だったという。惣八屋という屋号があり、近隣の人から屋号で店を覚えてもらっていたことで、それならと6代目のおじい様、つまりは4代目がこの屋号から名を取り『惣八』の看板を掲げたのだという。

ライター寺田

「歴史がすごいですね…。でも、聞くところによると7代目はいらっしゃらないとか」

藤澤さん

「そうなんだよね。娘がいるんだけど、今は県外だからね…。自分もだったけど、親父も元銀行マンで、お爺さんに連れ戻されたんだって。先代の中にも別の仕事をしていた人もいたみたいなんだよ(笑)」

ライター寺田

「でも不思議と皆さん戻ってくるんですね(笑)」

藤澤さん

「そうだね(笑)。僕もきっかけがあって、店のことを真剣に考え、菓子作りに向き合ってきたからわけだからね。だからもうちょっと頑張って続けようと思うんだよね。「六方焼」に引き寄せられた自分や先代達、そしてありがたいことにお客さんともきっとこの菓子を通じてつながっている気がするからね

今や加賀には様々な六方焼が広まっているが、六方焼と言えば『惣八』のイメージが強いため「お客さんに別の店で買った六方焼が美味しくなかったと言われたことがあるんだけど、うちは卸しはやってないからね。やっぱり同じお菓子でも味は全然違うんだね」と話す藤澤さん。頼まれれば、旅館に持っていくこともあるというが「やっぱり作りたて、出来立てを食べて欲しいからね」とこれまでどおりのスタイルも守り続ける。6代目の佐々木さんは、他では買えない『惣八』の味を歴代店主と同じくただひたすら真面目に丁寧に受け継いでいる。山代温泉を訪れたら温泉卵と「六方焼」、なんとなくその意味が分かった気がする。

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