ジャズの流れる純喫茶パーラーアコ

No.12

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レトロな喫茶店に残る、

不思議な魔力のある、

イタリアンスパゲッティ。

小松の飴屋町にある商店街の一角にジャズが流れる喫茶店がある。ジャズの音を頼りに店に向かうと、現在88歳のマスター、岡野信夫(おかののぶお)さんが営む喫茶店『パーラーアコ』が見えてきた。昭和43年開業のこの店、当時は多くの学生が足を運び、今では学生時代を懐かしむ人のほか、貴重なレコードやオーディオ機器から流れる音楽と珈琲を楽しむため、県外からもファンが訪れる一軒だ。なんでも創業当時から愛され続けるイタリアンスパゲッティがあるという。2019年11月8日に51周年を迎えた、今でも評判の一品を求めて、今回も絶メシ調査隊の寺田が店に向かった。

(取材:絶メシ!いしかわ調査隊 ライター名:寺田尚人)

ライター寺田

「肌寒くなったこの季節、珈琲を飲みながらジャズを聴く。そんな優雅な時間を過ごすのもありですが、楽しみはこの店で提供される噂のイタリアンスパゲッティ! 50年前から客の胃袋を満たしてきた歴史ある一品ということ。ジャズとスパゲッティの組み合わせも粋じゃない!?」

「こんにちは~」と店内に入ると、マスターの岡野さんが「ようこそ。ジャズを聴きながら珈琲を楽しむ店へ」と笑顔で出迎えてくれた。

まず目に飛び込んできたのは、 年季の入ったオーディオ機器。

岡野さん

「音がいいでしょ。これも昭和53年頃から店に置いてあるものです。素晴らしいJBLオリンパスでジャズを聴いて、至福の時間が楽しめるようにってね」

ライター寺田

「すごい迫力ですね。当時のお客さんもこのジャズの音色を聴きながら珈琲や食事を楽しんでたわけですよね。…そう考えると自分も時を超えて当時の空気を感じる気がします!(店内もレトロな感じが漂ってますからね)」

岡野さん

「そうやね(笑)。オープン当初から雰囲気は変わってないかな、昔はやはり学生が多かった。今はそのころ来られていたお客さんが、ありがたいことに今でもおいでになられるんです。バックグランドミュージックがかかり、そしてエアコンがある、それが当時の喫茶店の在り方だったんですよ。でもね、私がお店を始めた時は、オーディオや音楽に詳しくなくてね(笑)」

ライター寺田
「え? そうだったんですか。音楽が好きでこういうお店を出したのかと思ってました」
岡野さん

「徐々に学んでいきました。オーディオ機器やジャズはお客さんから教えてもらいながら。この機器がいいよとかね。まぁ、その方が業者の人だからお金出して買ったわけなんだけど(笑)。このオーディオ機器はもうここにしかないんじゃないかな。メンテナンスしてくれていた人も、いなくなってしまったか困っとる

ライター寺田

「かなり貴重なものなんですね。貴重な機器で聞くレコードにちょっと感動です!

岡野さん

「レコードもね、私はたぶん2枚くらいしか自分で選んでないかな。全部、お客さんから教えてもらってだね。中にはお客さんがくれたものもあるんです」

ライター寺田

「へぇ~。いろんな人の繋がりがあって今に至るんですね。ちなみにお店で出しているイタリアンスパゲティ(本日最大の目的)も誰かから学んだものなんですか?

岡野さん

「店のメニューは、高知で喫茶店やお好み焼き屋なんかをやっていた兄のもとへ習いに行きました。私は五人兄弟の末っ子なんで」

コピーだが、オープン当初のメニュー表が残っているということで、見せてもらうことに。

歴史を感じますね。だって珈琲が一杯80円だったんですから。

当時のメニュー看板はインテリアとして飾られる。メニュー表を見ながら岡野さんは、「20年ほど前までやっていたが、もうやっていないものばかりや」とポツリと言います。年齢を重ねるうちに提供するメニューを減らしていったのだそうです。

「これも」っと見せてくれた、 3種類の名刺とマッチからも歴史を感じる。

店名のアコは昔飼っていた猫の名前最初の名刺も飼っていた猫をイラストにして作ったとのこと。次に常連客の娘さんが、店のコンセプトをポスターにしてくれたデザインで名刺を作成。今でも、元になったポスターはお店の前に貼られています。そして現在は、希少なオーディオ機器の写真を名刺にしている。マッチもオープンもオープン当初のものだとか。マスターは今でも大事に思い出の品を保管されています。

ライター寺田

「オープン当初は、軽食やデザートなんかのメニューも豊富だったんですね。どうしてイタリアンスパゲティだけ、いまだに残しているんですか?

岡野さん

「そうやね。このメニュー(イタリアンスパゲッティ)はお客さんから不思議な魔力をもっとるって言われてな。週に2、3回食べにくる人もおるんでね、やめるにやめれんかった。これだけは今でも残している。…そろそろ、作りますか?」

ライター寺田

「(やった!)お願い致します!」

カウンター奥の厨房へ行き 慣れた手つきで調理を始める岡野さん。

野菜はごろっと入り、パスタ? は太めだなぁ~などと考えていると…。「ごめんね。これ以上は企業秘密やわ(笑)」と岡野さん。残念…。

仕方がないので、席に着き到着を待ちます。

店内奥にはテーブル席があり、なんともレトロな雰囲気。

「できました」っと

待ちに待ったイタリアンスパゲッティ650円(税込)が運ばれてきました。

見た目はシンプルですが、ケチャップと野菜の香りが漂います。そして、当時店を訪れていた学生向けに作っていただめ、量もなかなかのもの。しかし、「あまりにも量が多すぎるっていろんな人から言われて、今はちょっとだけ減らしたんだわ」と少しさびしそうに岡野さんは笑っていました。これでも十分ボリュームがありますよ。

せっかくですので、カウンター席でいただくます。

このスプーンも50年前のもの。丁寧にメンテナンスをして使い続けているのだとか。

 

では! いただきます!

モチッとした麺を口に入れると、麺にしっかりと馴染んだ野菜の味わいとケチャップのコク、絶妙な酸味が広がります。また、少しピリッとした辛みがあり、この辛みが一皿全体の旨味を引き立てます。なんだか懐かしさを覚えるシンプルな味付けに感じますが、食べ進めるうちに旨味が蓄積されていき、不思議と一度食べ出したら手が止まらない。

ライター寺田

まさに、不思議な魔力を持つイタリアンスパゲッティですね(これを言い始めたお客さんの気持ちがわかる気がする)。一口食べると、またこの味を体が欲するというか…。この味付けのポイントはなんなんですか? あと岡野さん、このピリッとする辛さは?」

岡野さん

知らん(笑)

ライター寺田

ん?(なるほど、企業秘密というわけですか)。…野菜の味もしっかり麺に絡んできますね! 味のベースって?」

岡野さん

分からん(笑)。秘密や秘密(笑)。ほら、食べ終わったら音楽聞きながらコーヒー飲みな」

ライター寺田

「ありがとうございます。(やっぱり、半世紀にわたって守ってきた味はそう簡単には教えてもらえないか)

その後、レコードをかけてもらい。コーヒーを入れてもらいました。

ライター寺田

「そもそも岡野さんはどうして喫茶店をやり始めたんですか? 先ほど音楽やオーディオに当時はそこまで詳しくなかったって言ってたので気になって。(イタリアンスパゲティの味の秘密も気になりますが)」

岡野さん

「ん~。なんとなくやね(笑)というのは、別の候補にお好み焼き屋や花屋、化粧品店、子供服の店なんかもあったんですよ。どの道に行っても私には理念と信念があったから、商売なら何でもよかった!

ライター寺田

「その理念と信念ってどんなものなんですか?」

岡野さん

「一言でいうと、商人に生きろ」

ライター寺田

「? (一言で言われても分からない)。すみません岡野さん。もうちょっと簡単にするなら…」

岡野さん

「(笑)儲けようと思うことはない。思うべきは、人の心の美しさを我が生涯の姿としたい。自分の店を出す前は長男がやっていた紳士服を販売する店で働いとったんや。そこで商売についての勉強会があって、商いの在り方を学んだ。当時は何がなんやらさっぱり分からん! 儲けじゃないってどうゆうことやってわしも考えた」

ライター寺田

「それで、岡野さんはどう考えたんですか。やっぱり自分は利益も大切だと思ってしまうんですが…」

岡野さん

「もちろん大切や。でもそれ以上に一人のお客さんを大切にする。その人にとって自分の人生に必要な店であると思われる。これも、自分で店をもつために心掛けた、いわば原点の一つやね。だからこそ、今、店においでになられるお客様を大切にしているし、元気に店に立てるんやと思う

ライター寺田

「岡野さんの貫く理念と信念がこの店を守ってきたんですね。原点が今残しているイタリアンスパゲッティにも現れているわけですね」

岡野さん

「そうやね。食べに来てくれる人がおるから、作り続ける。まぁ、レシピは秘密やけどな(笑)」

ライター寺田

「結局、秘密なんですね~。じゃあ、岡野さんが守ってきたこの秘密のレシピを伝える方、店を継がれる予定がある方っていらっしゃるんですか?」

岡野さん

「おらんね~。…時が来たら、後継者探すのお願いするわ(笑)」

その後、常連さんも次々と店へ。

「一人のお客様を大切にする」その言葉通りに、訪れる客の好みしっかりと覚えているのだとか。岡野さんを通して、常連さんとの会話も楽しませていただきました! このいった繋がりも大切にしているんですね。

商売とは何なのか、人を大切にするとは何なのかを考え、時代を超えて人と人を繋いできた『パーラーアコ』。それは名物のイタリアンスパゲッティだったり、自慢の珈琲だったり、心地よいジャズの音色やマスターの岡野さんとの会話だったり、様々な魅力がこの店にあるからだ。岡野さんが考える商売の在り方は、この素敵な空間で寛ぐ人にしっかり伝わっているに違いない。「小松に来たならば、またこのレトロな喫茶店で食事と珈琲を楽しんで」と見送ってくれた岡野さんに、また会いに来たい。

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