石川県民にもあまり馴染みのない「金沢ジャジャメン」が食べられるお店「おたふくや」!金沢で有名なうどん屋さんに店名が似ているが??
金沢市吉原町に、長年続いている老舗があるという。その名は「おたふくや」さん。 金沢では似たような名前のお店が存在しているが、もしかして...パクりましたか?? その真相を探るべく、いざ、潜入!!
( 取材: 絶メシ!いしかわ調査隊 ライター名: 美緑トモハル)
店主は2代目。歴史が感じられるお店の入り口には年季の入ったショーケース。 紛れ込んでしまったか!?灰色の世界
お店に着くや否や目についたのは、これぞ!!絶メシ!?「何を食べようかな?」と覗いたショーケースの先は、全てがグレー。ラーメンなのか、ソバなのか…もはや瞬時に区別がつく者はこの世に存在しないだろう。ここでひと盛り上がりは確実だ。店内もグレーだったら走って逃げよう。全力で。仕事なんて知ったこっちゃない。そう心に決めて、扉を開けた。
ガラガラガラ…

「こんにちは…今日は、よろしくお願いします…。」

「はい。」
…よかった!!色がある!!しかもなんだか居心地がいい。例えるなら、「祖父母の家」のようだ。全力で甘やかしてくれそうな安心感…。しかも店主はやさしそう。すぐに仕事モードに突入した。(えらいぞ、ミロク!自画自賛!)

「よろしくお願いします。いやー、寝不足やさかい。」

「寝不足?昨日忙しかったんですか?」

「ええ忙しくて、昼食べたのは4時過ぎ。」

「ええ!?」

「お昼食べれん時もあるよ。」

「本当に!?」

「うん。でも、なんもない日もあるし。」

「あー…そうですよね。毎日わかんないですよね。」
ここでミロクは悟った。ははーん、このお店。さては…お客に愛されているな!?と。

「おたふくやさんは何年やられてるんですか?」

「創業62年やね。元々は、この人(姉)の旦那さんが、博労町のお多福で修行して始めたお店なんやけどね。」

「お姉さんの旦那さんがお多福さんで…だから店名が似ているんですか?」

「それが、お多福さんで修行していたんだけど、もうちょっとで10年ってところでね…それで"や"がつい「おたふくや」になったんや。」

「ん?どういう事ですか?」
名前が似てるのは、暖簾分けだった!!でも…微妙に違うのはなぜ?
実はお多福では10年の修行を経て「暖簾分け」が許されるらしいのだが、先代の出島留次さん(美代喜さんの旦那さん)は、その10年を待たずにこの店を始めたのだ。あと少しだったこともあり、「や」をつけての「暖簾分け」で許可をもらい今に至るのだそう。

「それで62年やられてる。清さんが旦那さんから変わられたのはどういったいきさつで?」

「このお店を開業後、8年程経った時に、34歳という若さで亡くなってしまって。当時はまだ17、8だったんだけど、姉ひとりだとやっぱり大変で。それで、別のところに働きに行ってたのを辞めてこのお店に入ったんです。元々、中学の時からお店が忙しい時には手伝っていたから。」

「学生の時から手伝っていたんですね。だから、そこはスムーズだったんですか?」

「そうやね、知らないと出来ない。」
学業も大事!家の手伝いも大事!! 学校を休んで手伝いのはずが、なぜが違う形で登校することに…

「メニューいっぱいあるじゃないですか。徐々に増えていったんですか?」

「昔から結構あったけど、自分らでこう色々開発していって増えたのもあります。」

「開発!どのメニューが人気ですか?」

「ジャジャメンを頼まれる方は多いかな。」

「ジャジャメン…。」
この時のミロクの頭の中には、盛岡のジャジャ麺、はたまた韓国ドラマに良く出てくる真っ黒いジャジャ麺を想像していたが、実物は全く違っていた…真相は…後半へ続く。

「中学生でお店を手伝うって、大変だったんじゃないですか?」

「まあ、店が忙しかったからね。そんな忙しい最中に姉が妊娠して、お腹も大きなってきて、手伝ってと。その頃は、旦那さんの方の兄弟の子も手伝いに来てくれとったから3人でやっていましたね。」

「それは学校が終わってから?」

「それがある時、学校休んで手伝っていた日に、お店に中学校から出前が入って。『あらーっ』と思ったけど、仕方ないから職員室に配達に行ったんです(笑)」

「!?怒られませんでした?」

「で、先生たちから「お前、今日学校休んで何しとるん?」って。『あ、すいません、今日はうちの仕事です』と。そしたら、校長先生も担任も『まぁいいやろ、頑張れや』って(笑)」

「えー!今だったら怒られそう(笑)いい話ですねー!」
清さんの中学では、お昼は給食ではなくお弁当だった。姉が忙しくてお弁当が作れない時には、旦那さんが昼時、学校に出前を届けてくれた。冷やかされるのかと思いきや、周りのみんなは「今日はなんやー?カツ丼かー?」と。何とも平和な時代であった。
来られるお客さんは常連さん多数! 創業から変わらない店内に懐かしさが溢れ出す。

「当時からお店はこの場所ですか?」

「ずーっと、変わってないです。旦那さんの意思を継いでやっとるから、あんまり店も触っとらんし。一回、壁紙とかは張り替えたけど、それくらい。」

「それだけ変わらないとなると、昔から通われている方は、当時を思い出して懐かしいっていうんじゃないですか。」

「そうやね。と、思う。子供の時から通っているって人なんかは、もう所帯持ってね。たまに来てくれるね。」

「コロナになって、客足ってどうでしたか?」

「1回ちょっと人が減ったけど、今はまた回復してきたかな。コロナでも来てくれる人はちゃんといたね。」

「そんな常連さんがたくさんいらっしゃる。」

「まあ、ありがたいことに。みんな歳いかれたけど。」

「長く愛されている証拠ですね(笑)やっぱり近所の人が多いんですか?来られる方。」

「近所の人も多いし、遠くから来る方もおられるね。」

「1番遠くて、どこから来ていますか?」

「滋賀県。」

「え!?」
ある日ふらっと来たグループが、今では週に1 度顔を出す。石川県が地元なわけではなく、たまたま仕事で通っている金沢でこの店に入ったところ、気に入ってくれたのか常連さんとなった。

「他にもね、昔ここによく来とった子が、里帰りしたら必ず寄ってくれる。」

「実家に帰るみたいな?」

「そう、そうそう。あとは、去年山形行ったんと、鳥取行ったんと、たまたまここで会って。おー何十年ぶり!?って(笑)」

「(笑)同窓会みたいなことに。」

「ね、そういうの見ていると楽しいです。」

「ここにこうやって人が集まるのは、清さんの人柄もあるんでしょうね。」

「いや、そんなことないけども(笑)いろんなお客さんと喋ったいたり、出会いがあると楽しいね。毎日毎日違うから。」
昭和の時代には、学生が帰り道にお店に集まっていた。そんな常連の学生たちが店でタバコを吸う事もあったそうで、たまにお巡りさんがお店に遊びに来た時には「今は吸ったらダメやぞ」とバレないように注意を促した。その時の学生が、今では立派にお巡りさんとなった。ほかにも消防士や救急車の運転手になった子もいる。

「神棚がね、ここにあるんやけど、消防とかお巡りさんの試験あるからって、その子らが拝んで行って。そしたら、受かったね。」

「えー!ご利益あるんですね。あとで参っておこう(笑)」

「いや、楽しい時代やった。もうその子らも56、7になっとるさけね。」
昭和40年代頃が一番忙しかった。その頃は近くに工場があり働いている人が、お昼めがけてやってくる。そうかと思えば、スっといなくなり、次は学生さんがドンとやって来た。夕方になれば出前が忙しくなる。朝から晩まで、入れ替わり立ち替わりの日々だった。
はじめましての味にほっこり。あまり聞きなじみのない「金沢ジャジャメン」とは?
メニューを眺める。

「このメニュー書いたのはお父さんなんですか。」

「この人。」

「奥さん!めちゃくちゃ字が綺麗!達筆!字を習っていたんですか。」

「普通です。(笑)」

「彼女のお母さんがものすごい上手な人で。」

「あ、そうなんだ!へえ、すごい綺麗。」

「字書く人おいでるけど、書いてもったら結構たかい。」

「そうですよね。文字だけでも美味しそうに見える…。お腹空いてきました。そろそろ作ってもらってもいいでしょうか!?」

「何作る?」

「うーん、先ほど言ってたジャジャメンと、ちょっと食べてみたいのがカレーうどん。」

「けいらもするか?」

「けいらってなんですか。」

「卵をバーっと溶いて。あんかけにして。」

「それをけいらって言うんですか。へぇ。知らなかった。」

「うん。今から寒なったらよく出るよ。」

「じゃあ!お願いします。」
作ってもらっている間に、お店でビールを飲んでいた、常連さんだと言う男性に声を掛けた。

「こんにちは!ちょっとお話良いですか?」

「なんや?」

「お父さんは、このお店の常連になってどれくらいですか?」
…ここからの盛り上がりを活字にすると、おそらく紙面をジャックしてしまう程のページ数になりそうなので割愛させて頂くが、ちょっとだけまとめると、ここに通い始めて20 年。最近は毎日が日曜日(笑)今日も昼から大好きなアルコール。同じ話をアンコール・・・。おたふくやさんで好きなメニューは味噌ラーメン。あまりにも美味しすぎて、自分の胃の容量を超えてしまったこともあるそうです(笑)すごく人間味に溢れて、いい常連さんでした!笑いが何度起こったことか…(笑)(この場を借りて感謝を伝えさせてください!ありがとうございました!)
そうこうしていると、出来立ての料理が運ばれてきた!!

「はい、ここに置くねー。」

「これは?」

「ジャジャメン。」
!!?
見た目、ラーメンっぽいんですけど!?思ってたんと、ちがーーーう!!(笑)野菜たっぷり!では、いただきまーす♪
おっ?あっさりしてると思いきや、ほんのりパンチがある味…。

「にんにく入っとる。」
なるほど!そしてこの香ばしい風味は、ごま油ですね?スープは鶏ガラスープにかつおだしのうどんつゆを合わせてある。美味!!

「ソースをちょっと掛けるのが基本です。」
いやいやいやいや。ラーメンにソース?そんなの合うわけ…
合うーーーーー!!(笑)確かに味が変化して美味しい。結構味が変わるので、飽きずに最後まで食べられます!!

「はい次ね。」
来ましたよ、カレーうどん!うどん屋さんのカレーが美味しいってことは、ど素人の私でも知っているわけですよ。
(ひとくち)
うまーーーい(歓喜)
やっぱ、出汁ね。最高やね。カレーは飲み物やね。

「これで最後かな?」
???
けいら登場。
見た目は石川県の郷土料理、ベロベロ(えびす)とそっくり!!味は…やさしいのよー!ショウガがピリリと効いてはいるものの、出汁とたまごの風味でシンプル。清さん考案のメニューだそう。あんかけ&しょうがで、これはあったまるわー。
ごちそうさまですー!!満足で満腹過ぎた…胃の容量オーバーです…(笑)
「おたふくや」で使われている野菜は、清さんが畑で自家栽培を行っている、ほぼ無農薬の野菜だ。夏は朝の4時頃、秋は6時頃。明るくなる時間に畑に足を運ぶ。畑の管理は清さんがやっているが、畑からお店に戻る頃には、お店の下準備を美代喜さんが終わらせてくれている。二人三脚だ。

「お店の味は昔から変わらないんですか?」

「昔からもうほとんど作り方も材料もあんま変わってないから。」

「調べてみたら、お多福さんもジャジャメンやっているんですよね?味は同じなんでしょうか?」

「そうです。暖簾分けはしているから、レシピは同じ。でも作る人が変わると、ちょっこずつ変わるかもしれんよ。同じ材料でお味噌汁作っても、人が変われば少し違うでしょ?だからその程度ぐらいで。」

「『金沢のジャジャメン』との事でしたけど、私の知っている『ジャジャ麺』とは違ったんです。盛岡にも、韓国にもジャジャ麺ってあって。それぞれ違うんですけど、この『金沢のジャジャメン』はどうやって出来た商品なんでしょうか?」

「聞いたところによると、昭和30年に石川県で『全国麺類飲食業者大会』と言うものが開催されて、その時に金沢で考案されたのがこの『金沢ジャジャメン』。それをお多福さんが継承したみたい。」

「大会用に作られた味だったんですね。で、今はお多福さんのメニューに。」
人生のほとんどが「おたふくや」での時間。手間を掛けた味を伝える事の難しさ。

「しんどいなって思うことってないんですか?」

「なんもしんどいと思うことはないな、仕事は楽しい。」

「すごい!中学時代からだと、ほぼほぼ人生このお店に関わっているってことじゃないですか。それでも毎日楽しいって…天職ですね。」

「そうやね、うん。」

「元々作るのとかは好きだった?」

「だんだん好きになってたんかねぇ。」

「もうそろそろやめようかとかは。」

「なんもない!」

「いい!!では、その…跡継ぎというか、後継者というのはどうお考えですか?」

「それが問題なんやって。弱ってる。でも姉の子供が今、結構手伝いしてくれとるから、もしかしたら…と思っとるんやけど…。」

「お姉さんのお子さんが!では、そういう話はしたことはないんですか?」

「なんもしとらん。でもね、手伝いながらだんだん自分で自覚してくれたらいいなとね。親の店やから。」

「そうなってくれたらいいですね。」

「かたい子よ。お昼休憩時間に仕事場から来てくれる。」

「あ、じゃあ、別の仕事しながら。」

「ちょっと行ってるんやけど、昼に一回帰ってきて。ありがたい。ほんで夕方と。」

「別の仕事をしていても、少しでも駆けつけてくれるのは、心強いですね。」

「自分もだんだんくたばって行くから。もう74 やからね。」

「まだまだですよ。」

「いや、まだ元気ではあっても、あと10 年できるかできんかよ。」

「寂しいですよ、そんなこと言うと。」

「普通の店でも後継者おらんってだいぶ弱っとる店いくつもあるしね。」
後継者問題。足を運ぶ私たちにとっても、無くなってほしくないお店は多いです…。

「もしも、他にこの味を継ぎたいって人が現れたら?弟子にしてくださいとか。」

「いやー…継ぎたいっていう人あんまり来ないです。昔みたいに、忙しいってこともないし、新しい店やったらそう言う人もおるかも分からんけど。うちは、出汁から全部手作りやし。カツオも鶏ガラも。昔ながらのやり方で…だからなかなかね。」

「手が込んでるから。」

「そうそう。大変だからね。」
昔ながらの引き戸を開けると、変わらない顔が出迎えてくれる。いつも注文するメニューを口に運ぶと、変わらない味が口の中に広がる。そして心は懐かしさで溢れ、また頑張ろう!と気持ちが上がって店を後にする。変わらずに来ている常連さんはきっとこんな風に感じているんだろう。清さんと美代喜さん。いつまでも変わらずに元気に続けてほしいなと思いました!ありがとうございました!!感謝。