秘伝のタレをラーメンに七味らーめん

No.10

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ラーメンに惚れて、

地元を愛す、

そんな店主の物語。

ライター寺田
「皆さんこんにちは、絶メシ調査員の寺田です。早速ですが「いしり」という調味料はご存じでしょうか? 県外の方は馴染みが薄いかもしれませんが「いしり」とは、真イカの内臓を使った石川県の能登半島では古くから使われている「魚醤油」とのこと。ちなみに「いしる」というものもあり、こちらはイワシやサバなどが主な原料になっています。今回、その「いしり」を使ったラーメンがあると聞き…来ちゃいました、能登に!!

生活の知恵から生まれた伝統的な調味料を使ったラーメンやいかに!?

能登空港から珠洲までを結ぶ道をひたすら走り、緑豊かな能登町、天坂高速のバス停がすぐ隣にある『七味ラーメン』に到着。看板には大きく書かれた「いしりラーメンの店」の文字とイカのキャラクターが。そして、店名についてる七味というのはやはり「七味唐辛子」のことでしょうか? それでは、いざ店内へ!

店主の中田昭平(なかだしょうへい)さん69歳とお隣の美知子(みちこ)さん。ご夫婦で「ようこそ」と出迎えてくれました。

ライター寺田
「表の看板にも書いてあった、いしりラーメンが一押しと聞いて来たのですが…」
昭平さん
なんでも一押しや(笑)。地元の食材使っとるしな。まぁ「いしり」使ったラーメンは創業当時からやってたから、人気やな
美知子さん
「うちは最初、地元能登町の七見で開業したの。そのあと珠洲道路が開通してみんなそっちの道を使うようになったから1987年に宇出津駅の前に移転したのよ。でも、今度は能登線が廃止になってね。店の前の道路ができるってことで2003年にこの場所へ来たのよ」
ライター寺田
「へぇ~。二回も移転してるんですね。でも、町の変化に合わせてってことですね」
美知子さん

「そうなのよ。でもどちらの移転も、厨房の改装やリフォームを考えていた時期だったからタイミング的にも良かったの」

昭平さん

「店の名前も変えんと来たから、常連さんもついてきてくれたしな。ちなみに店名はわしの地元、能登町の七見からとって、見は飲食店だから、味に変えただけなんだわ(笑)

あ! 七味唐辛子は関係なかったのか…。

次に気になる昭平さんが店を始めるきっかけについて聞いてみた。

思い立ったが吉日。19才で地元を離れラーメン道へ

普段は寡黙な昭平さん。後から聞いた話だが、美知子さん曰く、こんなにも話をする昭平さんは珍しいとのこと。

昭平さん

わしが学生の頃に近くにあった食堂によく通ってたんだわ。頼むのは、ほとんどラーメン。そこからラーメン好きになったんやけどな。その頃、8番らーめんの一号店が加賀にできたやろ? そのとき食べたラーメンに衝撃を受けてな。19才の時に新聞に8番の従業員募集があったから応募して、働きに行ったんだわ

ライター寺田

「ラーメン好きから、今ではラーメン屋の店主ってことですね。いや、それにしても自分でラーメン作りたい! ってなったお父さんの行動力がすごいですよ! それも加賀まで行ったわけでしょ? ご両親もよくOKだしましたね」

昭平さん

「うちの親が工場で勤めててな…。まぁなんとか話つけて、加賀まで働きに行ったんよ。寮があったから、通う手間もなかったしな。働きながら、いつかはチェーン店としてでも自分の店持ちたいって思っとったし。でも地元のほうには結局来んかったから、自分で店出したんや

美知子さん
「それでね、従業員さん欲しいでしょう。私、看護師として働いていたんだけど店手伝ってくれ~ってお願いされてね。しぶしぶよ(笑)」
ライター寺田

「それで、看護師やめてお父さんとお店やることにしたんですか!? お父さんもやりますね~」

昭平さん
「…ラーメン作るか?」
ライター寺田
「(これは、お父さん的にはNGな会話だったか…)お願いします!」
昭平さん

「わしが作ったオリジナルは、実はもう一つあってな。イカ味噌使ったやつなんだが、ついでだし作ってやろうか?」

ライター寺田

「ぜひぜひ! お父さん考案のラーメンはいしりとイカ味噌の2種類があるんですね

昭平さん

「そうやね。自分で店出したときは醤油・塩・味噌だったんやけど。それも当時の8番の味を参考にしてな。でも町会の人達が町おこしのために、この土地ならではのラーメン作れんかって来たわけよ。そんで、いろいろやってみて、いしりとイカ味噌つかったラーメン作ったわけ。まぁスープとの相性も良かったからな」

ちょうどいいからと見せてくれた、いしりが主役の特製調味料。芳醇な香りが漂います。

美知子さん

これ、作り方お父さんしか知らないのよ。家族にも教えない、秘伝のタレね。時々、お父さん大丈夫かなって思うときあるけど、最近はこのタレ作ってる限りはこの人は健康なんだなって思うようになったわ(笑)」

ライター寺田

「なるほど、食べる人にはおいしさの秘訣だし、お母さんにとっては安心のタレなんですね(笑)」

昭平さんの作るラーメンは、なんと野菜を炒め、そこに豚骨出汁を入れて旨味を引き立てる!

「出来たぞ」っとまず出てきたのは、いしりラーメン680円。

先ほども感じたのですが、目の前に運ばれるとスープの香りが鼻と腹を刺激してきます。シンプルな見た目なのに、手のかかった一杯。まずは、スープを一口。豚骨の風味に奥深い、いしりの味わいが広がってきます。

ライター寺田
「野菜の甘味、そしてあっさりとした豚骨出汁をしっかり感じますね!」

麺もすすらせてもらいます!

麺は細麺で少しちぢれた感じになっています。

ライター寺田
「お父さん! たまらんです! 最初の印象は優しい味のラーメンなのですが、「いしり」を使ったタレですね。コクがどんどん口に広がっていって先ほどとは正反対、あっさりした豚骨がどんどん濃厚な味わいになってきます。出汁とタレが互いに旨味を引き立てあってる感じ。麺がスープに絡まると、スープだけで味わった感じとはまた違う! 一段と香りが立ってきますね。いしりの磯の風味が麺にもしっかりついてきますね。これ8番さんで出してたものをベースにしてるんですか? あと、これずっと変えてないんですか?」
昭平さん

「ん~そうやね。まぁわしも働きながら修業したって言ってもスープの材料を直接教えてもらったわけじゃないからな。ひたすら食べて、味を覚えていったんや。でも、なんとなく分かるもんやろ、四六時中ラーメンのこと考えてたら。それで自分なりに食べ続けた8番の味に近づけていったんや。味はそうやなぁ~あまり当時から変えてないなぁ」

ライター寺田
「いや、難しいと思いますよ…。(レシピを教えてもらったとかじゃないのか)」

次は「いかみそラーメン」680円。これまた手際よく、鍋をふるい野菜を炒め、特製のイカ味噌タレを使いあっという間に完成!

いただきます!

ライター寺田
「このスープも独特な香りがたまりませんな! こっちの麺は中太ですかね…ん! スープは、野菜の旨味と今度は味噌の味わいがスッと入ってきますね。はじめは、あっさりした印象はあるのですが、イカ味噌がいい仕事してますね。どんどんスープの味わいが強くなってきます。無意識にスープを口に運んでしまう!」
昭平さん

作り方は教えられんけど、特製のイカ味噌タレは、すこし濃厚な味にしとるからな。スープとのバランス考えて」

美知子さん

「いしりもそうだけど、くせになったってまた来てる人もおられるわ」

ライター寺田
「自分もくせになりそうです!」
ごちそうさまでした。

あっという間に食べ終えて、その後は後継者の話に。

ライター寺田

41年間続いてきたお店は、後継者の方とかいらっしゃるんですか?

昭平さん
「おらんね。娘がおるけど継がんやろうし。…わしも昔は今以上に重たい鍋ふれてたんだけどなぁ~。いつラーメン作れんようになるか分からんわ
ライター寺田

でも、秘伝のタレはお父さんしか作れないんですよね? 弟子になりたいって人はいなかったんですか?」

昭平さん
「おらんね~。儲からんの分かっとるから(笑)」
美知子さん

「宣伝する力もないしねぇ~。常連さんやまた来たよって人に支えられて何とかやってるわ。お父さんが一代で作ってきたお店だから、ほんとはずっと残していきたいんだけどね」

昭平さん
「まぁ鍋ふり続けらるうちはな」
美知子さん

タレやスープ、ラーメン作るのも最初は食材選びも大変だったの。お父さん、納得できる味作るためにいろんな食材使ってみて、あれもダメ、これもダメって。それでようやくできた味だから。お父さんが作る秘伝のタレは特にね。だから、あんまり教えてくれないのよ」

ライター寺田

「じゃあ本気でお父さんのところに修業させてくださいって人が来たら、秘伝のタレも伝授するんですか?

昭平さん

そんな人がおったら、考えなくもないわな

学生時代よく通った店で食べ続けたラーメン。その後、自分の人生を変えたラーメンとの出会いがあり、今の昭平さんがいる。地元に構えた店では、町の特産品を使ったラーメンをいち早く提供。多くのファンがいながら、その味を継ぐ者はいない。「鍋をふりつづけられるうちはな」と笑いながら話す昭平さんだったが、少しばかり悲しい表情も感じられた。

にじみ出るラーメンと地元愛が感じられる「七味らーめん」では、いつでも二人が温かく迎えてくる。能登へ行く際は、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加